« 砂上に眠る一等星 ~ホクトベガ~ Vol.1 | トップページ | 砂上に眠る一等星 ~ホクトベガ~ Vol.2 »

2007年8月 3日 (金)

真夏の夜は夢幻か夢現か

夜もふける頃、東京駅を出て空を見上げると、
変な様子で半弦の月が浮かんでいて、ちょうどそこは
丸ビルの空なのだが、そこに丸ビルの姿は見えない。
そんなことはあるまい、と目を疑うが、所々に水溜まりのある
原っぱがあるのみで、やはり、そこに丸ビルはなかった。

翌朝、確かめに出かけると、「丸ビル前」というバス停は
あるのに、目の前に丸ビルはない。
道行く人に訪ねても、知らない、と言う。
「さっきもそんな事を云った人がありましたが、一寸私には解りませんね」

新聞社に勤める友人にこのことを伝えるも信じてもらえず、
二人で確かめに出かけるも、丸ビルはやはりないので、
友人は腰を抜かしどうかしてしまうのだった。

翌日、用事があって丸の内に行くと、そこにはもとのままに
丸ビルは建っていた。

『帰りに一旦外に出て、もう一度振り返って丸ビルの建物を眺めたが、
 全く変わったところもない。しかし今まで自分が知らなかったので、
 これだけの大きな建物になれば、時々はそう云う不思議な事も
 あるのだろうと考えた。その後で、昨日まで生えていた草は圧し潰された
 に違いないが、水溜まりの上を走っていたあめんぼうは何処へ
 飛んで行ったろうと云うことが気になった』

上のお話は、内田百間(ケンは門に月)の短編小説『東京日記』の中の一話。
この小説には、上のように、現実と幻が交錯した世界というか、
あったかもしれない別の世界に主人公が足を踏み入れてしまうお話が
断片的に寄せ集められた作品で、東京の日常の延長上に展開される
不可思議な世界は、夏目漱石の『夢十夜』の10の夢物語のように、
あるいは、萩原朔太郎の『猫町』や柳田国男の『遠野物語』のように、
狐狸に化かされたような気持ちにさせてくれる大好きな小説です。

変な世界に行ってしまっても、主人公は特に何をするでもなく、
それはそれは淡々としています。ある日丸ビルが消えていて、
「これだけの大きな建物になれば、時々はそう云う不思議な事も
あるのだろう」とぼやく泰然自若っぷりがクールです。

と、これは夢のような小説のような夢の話なわけですが、
徹夜明けで疲労と睡魔の限界を彷徨っている夏の真っ昼間には、
体が起きていて脳が寝ている状態になっていて、何もかもが
ぼんやりして夢と現実の区別がつかなくなることがあります。
そんなときは、価値判断や驚愕の基準もガタがハズれているので
確かに、ビルひとつ消えたくらいでは驚かないかもしれないですが。

そういう状態になりやすい季節がやってきました。夏です。
夢現(ゆめうつつ)の夏バテには十分気を付けましょう。
この夏が皆様にとってよい夏となりますように!

Nikki_3

|

« 砂上に眠る一等星 ~ホクトベガ~ Vol.1 | トップページ | 砂上に眠る一等星 ~ホクトベガ~ Vol.2 »

コメント

て、徹夜ですか!?
夏はただでさえ体力が奪われていく季節。
体調には気をつけてくださいね!

宮沢賢治も幻想的な世界観をもつ作家の一人かと。
田舎の幻想世界と都会の幻想世界を味わってみるのも一興ですかね。
『東京日記』読みたいと思います♪

投稿: hsk | 2007年8月 3日 (金) 21時56分

>>hskさま
ありがとうございます。体調を維持するには食べ物や生活に
気を使わなくてはなりません。そうすると、つまるところ、
体調管理=心の管理なのかもしれませんね。

常に自己、そして自分の生活に配慮する自主管理の心がけが
体調を管理する上では何より重要なのだと思います。
。。。と書いて、今、自分を戒めている狛犬です。

『東京日記』、東京熱帯夜にはうってつけですよ〜。
宮沢賢治は昔に読んだきりですが読みたくなりました。
ご推薦ありがとうございます!是非読んでみます。

投稿: 狛犬 | 2007年8月 7日 (火) 00時05分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 砂上に眠る一等星 ~ホクトベガ~ Vol.1 | トップページ | 砂上に眠る一等星 ~ホクトベガ~ Vol.2 »