« パスタ週間 | トップページ | 融合 »

2007年7月 6日 (金)

東京の喫茶店3(帝都復興遺産篇)

この間、パリへ留学していた友が帰ってきたというので
久々の再会をしてきました。日仏の文化的差異を通して、
日頃当たり前に感じている日本の文化について、
つれづれと論じ合っている中、ところで日本はなぜ
これほどまでスクラップ&ビルドが盛んなのだろうか?
という話になり、土地や建物の収益性の問題、短命な建物の
ライフサイクル、建物に対し永遠性を求めない日本人の伝統的
意識構造、といったことについて少し考えることがありました。

何かを壊して新しく何かを作るといったことはどこの国でも
行われていますが、スクラップの対象やその意思決定要因、
スクラップに対する考え方、或はビルドへの意識など、
スクラップ&ビルドを構造的に支えている行動原理に注目すれば、
単純に資本主義の帰結としてでなく、カルチュラルな現象として
スクラップ&ビルドを捉えなおしてみるのは都市を考える上で
非常に面白いテーマになりそうに思えました。

S_1  Bl

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶ泡沫は、かつ消えかつ結びて、久しくとどまり
たるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し
という書き出しで始まる方丈記』に見られるような日本的な観念
また、20年毎に神殿を作り替える伊勢神宮の式年遷宮の儀式等を見ても、
日本でのスクラップ&ビルドには古い伝統があります。
※具象に無常を見出しそこに永遠を見ない日本の伝統的意識の中、
伊勢神宮では式年遷宮を「永遠性を追求する試み」と位置付けて
いることは日本でのスクラップ&ビルドを考える上で注目に値します。

こと東京は世界有数のスクラップ&ビルドの都市と言ってよいくらい、
目まぐるしい速さでハード/ソフト問わず日々メタボライズし続け、
お気に入りのお店が次に行ったときになくなっていたなんてことは
日常茶飯事、ビル自体が消えていることもしばしばで。

見えるものは全て変化し続け、本当に変わらないものは見えにくい‥
そんな奥ゆかしくもある東京では、変化を拒むような空間が
独特の魅力を放つ都市です。特に文化財の類いでもない限り、
それはいつ消滅してもおかしくない状況と隣り合わせであり、
その魅力には必ず「儚さ」がつきまといます。

東京がハイパーモダンな都市でありながらレトロなフィーリングとも
相性がいいのはその辺に由来するのかもしれません。
これまで紹介してきた喫茶店も、東京的なコンテクストの中でこそ
魅力を放っていた空間であると見ることもできます。
今回紹介する喫茶店は、スクラップ&ビルドの犠牲になってすでに
存在しないお店、その中でもかろうじで生き残っているお店を
ご紹介したいと思います。


■ニューワールドサービス(三信ビルヂング)
三信ビル解体決定のニュースは衝撃でした。現役のオフィスビルで
これほどアクの強い個性を放つ近代建築は他にないのではないでしょうか。
アールデコ調を基調としつつもゴシック的な妖艶さを放つファサード。
戦後の帝都復興の時期ともあいまって、そこで追求された様式は完全に
独自の境地に達しています。2層吹き抜けのヴォールト風アーケードの
内部空間はパサージュ的な開放感に溢れ、そのプランの中心に位置する
エレベーターホールが妖艶な空間の心臓部といった趣きでまた見事。
ありそうでいてなかなかないユニークな平面計画が新鮮です。
ちなみにこちらのエレベーター、日本初の自動制御EVだそうです。

02_1  01_2

さて、この三信ビルの1階に50年以上前から営業している喫茶店が
あって、それがニューワールドサービスです。薄暗ーい店内に
炎型のランプが光ります。メニューに特徴があるわけでもありませんが、
日本で最初にハンバーガーとソフトクリームを出したお店というのがすごい。

05_1  

三信ビルがなくなることで、都市からひとつの風景が消え、また、
歴史を味わう機会も失われると思うと偲ばれてなりません。

04_2 03_4

三信ビル
竣工      1929年(昭和4年)
所在地     東京都千代田区有楽町1-4-1
設計     横河工務所(松井貴太郎)
施工     大林組
構造     鉄骨鉄筋コンクリート造8階建て、地下1階

【参考】
***「三信ビルディング」解体のお知らせ
http://mfia.co.jp/home/news/2005/0121/index.html

***三信ビル保存プロジェクト
http://www.citta-materia.org/sanshin.php


■セブンスハウス(学士会館)
神保町から白山通りを少し南へ、そこは東京大学発祥の地、つまり、
日本での大学発祥の地に位置する学士会館があります。ここは旧帝大出身者で
構成される学士会の本部であり、ホテルやレストラン、結婚式場等の施設も
備えています。建築構造学の父・佐野利器と佐野門下の高橋貞太郎という
設計陣の顔ぶれから想像する通りの堅実、堅牢、荘厳な風格ある建築です。
曲線を描く建物のエッジと、直線的な開口部の対比がニクい!

01_4  02_2

こちらの1Fにはセブンスハウスというカフェ&バーがあります。

03_5

神保町で古本を買い、帝都の香りのするこちらの空間で
ゆっくり読書という過ごし方はお薦めです。

40  05_4

学士会館(登録有形文化財)
竣工      1928年(昭和3年)
所在地     東京都千代田区神田錦町3-28
設計     佐野利器、高橋貞太郎
施工     戸田組
構造     鉄骨鉄筋コンクリート造4階建て、地下1階

|

« パスタ週間 | トップページ | 融合 »

コメント

ニューワールドサービス。
いつか行ってみたいと思っていても日々の忙しさに流されて、結局かなわず。
閉館は残念でした。

変化があるから面白いと感じると同時に、その一抹の寂しさは消すことは出来ないものですね。


阿佐ヶ谷にある「名曲喫茶ヴィオロン」こちらはご存知だろうか?
ヴィンテージスピーカーで、古いオペラやクラシックが聴ける店。
お近くにおよりの際はぜひ。

投稿: NB | 2007年7月12日 (木) 00時10分

NB様
コメントありがとうございます。
写真は残りますが、空間は無くなれば二度と体験できませんし、
また、複製もできません。閉館する前のニューワールドサービスで
一服できたことは、今思うと本当にラッキーでした。

>阿佐ヶ谷にある「名曲喫茶ヴィオロン」
ヴィオロン、前から評判は聞いてはいました。。
(ご推薦ありがとうございます!)
以前渋谷のライオンをご紹介しましたが、名曲喫茶はまさに
東京砂漠の絶滅危惧種、行くなら今のうちなのかもしれませんね。
“種の保存”のためにも、機会があればレポしてみたいと思います。

中央線の名曲喫茶と言えば、高円寺に「ネルケン」という、
こちらも50年以上前から営業しているお店があって、激しく
お薦めです。上品なマダムさんが迎えてくれます。

投稿: 狛犬 | 2007年7月16日 (月) 23時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« パスタ週間 | トップページ | 融合 »